にがりは全てを試して評価



山下 基本的に、豆乳が良ければ、どんな凝固剤でも美味しくなるというのは確かです。で、同じ豆乳を使って一番美味くなるのは、にがりです。ここでは「にがり」だけに限って言いますけれど、この道に入るとだいたい、みんな「固形」から入ると思うんです。溶けるまでの時間を稼げることと、わりに大雑把に撹拌してもきれいに寄ってくれるということでね。これは、新しく(豆腐を)始める人は、必ず通らなければならないものだと思っています。赤穂(=赤穂化成梶jが「塩田にがり」をやめちゃったそうなんですけど、これに代わるようなものはあると思います。にがりに関しては、自分で全ての形態、基本的に三つかな「塩化マグネシウム」と「塩にがり」みたいなものと、「液体」のヤツね、全てについてそれなりに研鑽は積まなければならない、全てのものに精通しなければならないと思っています。安定性を求めるならばメーカー、ヨシカワ(給g川商事)とか赤穂(赤穂化成梶jのものがいいと思いますね。彼らの場合は、あくまでも安全性ということが筆頭にありますので、臭素だとか一部抜いてるものもあるはずなんで、海水そのものよりは安全だと思います。海水を使うのなら、太平洋の真ん中とか大西洋の真ん中とか、きれいなところのが一番いいと思うんですけど、それをやっちゃうと値段も上がるし、大手に買い占められるし、結局、豆腐には使えないですよね、値段が高くて。海水は一年を通して同じじゃないですから、バラツキが出て当たり前のことで。ただ、そんな大きなバラツキじゃなくて、その微調整はやはり、人間がしなければならないと思っています。にがりはまだ、初心者なんて言うと失礼なんだけど、片っ端から使ってみたほうがいいと思います。


庄司 あのぅー、にがりは初心者なんですが(笑)。技術的にはぜんぜん低いんで。大分には二つ、にがりを作ってるところがあるんです。二つとも脱サラの方がやられたんですね、塩に興味をもたれて。その一軒の方は、にがりのほうが結構需要があるんですよね。それやってくると、塩になる途中のにがりというか、にがりを先に取っちゃうんですよね。だから、これからまだまだ塩になるべきヤツが、ま、(色は)麦茶の少し薄いようなヤツなんですけどね。それが一社あって、もう一社は塩作り、そう作る人≠チちゅうやつ。塩の全部を結晶させようとすると、やっぱりにがりって少ないんですね。


山下 小笠原に問い合わせたことがあるんですけど、「にがりが出ない」って言いますね。全部塩になっちゃうっていうか・・・


庄司 でしょう?でね、そのにがりは純度が高いというか、透明度が高いです。で、分析は全部できてたんですけど、普通のにがりは、不純物が若干、ちゅうかかなりあるじゃないですか、このにがりはやはり(不純物が)ないんですよね。その代わり、塩が大量にできるんですよね。で、本人はその、にがりじゃなくて塩を売りたがってるんですよ。豆腐屋は、にがりが欲しいじゃないですか。でも、塩屋は塩を売りたがってるんですよ。で、結構高くなっちゃうんですけどいい話だったんで今、若干使ってはいるんですけど、にがりを買うと、塩が付いてくるんです(爆笑)。(にがりの値段は)十五リットルで五千円ですわ。


澁谷 
埼玉屋さんが、グルコンで立場取ってやってらっしゃいますよね。


新井 グルコンですか・・・グルコンのイメージって、変わりましたよね。今までは悪者で・・・「グルコンがあるから豆腐が不味くなる」みたいな。決して豆腐はそうじゃなくて、不味い豆乳だから、不味い豆腐にしかならない。美味い豆乳だったら、グルコン入れても美味い豆腐になる。そういうのを分かってもらいたくて。んー何ていうかな、真実はこうなのに、こうも極端に捻じ曲げられて、「グルコンは身体に悪いんじゃねぇの?」なんて言われてるわけじゃないですか。
結局ね、にがりばかりが「美味い豆腐ができる」って言われてるだけで、他の凝固剤のすまし粉でもグルコンでも美味い豆腐はできる。ただ、にがりの豆腐=一〇〇%にがりの絹ごしを作らないと、豆腐職人とはいえないんじゃないかと。


澁谷 で、売れてるんですか?グルコンの豆腐。


新井 いやー、それが出るんですよ、グルコンの豆腐(笑)。


澁谷 自分自身はグルコンって悪い凝固剤だと思ってないんで。ただ今、にがりのリクエストが多いのと、結局「にがり」って言うとお客さんが安心して買うからっていう部分で、なかなか端的にいけない部分ってあるんですよ。


新井 で、フジサワの人にも言ってるんですよ、凝固剤として「グルコン酸」って書けないか?って。グルコノラクトンじゃなくて。


澁谷 現実、それで埼玉屋さんってお客さんがすごく付いてると思いますし、お客さんにどのような形でアナウンスメントしてらっしゃるんですか?あのビフィズス菌云々とか・・・


新井 そこまでは言ってないですね。豆腐一丁食ったって、ビフィズスはそんなには増えない(笑)。食わないよりは増えますよ。食わないよりは増えるけど、あれ、豆腐一丁買ってって、そのまま一丁食べるかなぁ?


東田 結局、一番最後のポイントは、豆腐屋であるという人生、本当に自分はどういう人生を自分自身に与えたいのか、というところだと思います。本当に、初心に戻るっていうの?基本に忠実であるということを今、本当に忘れかけているんです。基本に忠実に、同じ作業を繰り返すことによって、また以前とは違う、味の違う豆腐ができてくるという風に感じますし、また一人一人のあり方・・・「豆腐屋、我、天職であり!」という部分をみんな持っていると思います。大豆屋さんも機械屋さんも・・・
皆さんもそれぞれにステージを持って販売されてると思うんですが、そこでどういう立場で売るのかということを明確にして、自分に自信を持った行動で豆腐業界を、豆腐屋を、自分の仕事をやって欲しいと感じました。そして今日、集まっていただいた皆さんの言葉を聞いて、本当に「豆腐屋って、これから面白いな、ますます面白くなるな」と思いました。


(二〇〇三年四月六日、インテックス大阪五号館Bゾーン会議室/文責・潟tードジャーナル社編集部)