師への思い、師の教え

故 堀田 平七郎氏(浅草並木藪蕎麦二代目主人)
美味しんぼの原作者である 雁屋 哲先生の「堀田さんの思い出」を読んでいただけたでしょうか?

私も私なりに思い出した順番にこのペ−ジに列ねていきたいと思います。

Fail no.1  「企業秘密」
雁屋先生のおっしゃる通り確かに最近はくだらない事をさも大事そうに企業秘密だと隠しそれがあたかも物凄い事のように誇大する。
私もつい最近まで魅惑の大豆と称し「タマホマレ」の名前を隠していた。少し反省している。だがこれは、タマホマレ一本で豆腐を造り上げる事が出きるまでのおまじないのような戯れ言であるので勘弁して下さいね。もし私が造る豆腐を気に入ってくれてどうしてもその豆腐の造り方を知りたいというのなら、幾らでも情報を送ります。知りたいと問い合わせて来る勇気や情熱も時には必要でしょう。まだまだ師の背中は大きく私のような者はとても小さく映るばかりなのだがその背中を追い続け少しでもその領域の端くれにでも、しがみ付けるよう努力して行きたい。(2001.1.28)

Fail no.2 「蕎麦屋の暖簾」   
最近では殆どの店が忙しいお昼の時間が終わる2〜4時位まで暖簾をしまい中休み(昼休み)を取っているようだ。
その様な流れの中、並木藪は未だに開店から閉店まで暖簾をしまうことを許されていない。
師の暖簾に対する思いを今でも守り通していると言って良い。
師曰く、「一日24時間有る内、その半分にも満たない八時間半がお客様をもてなす時間だ。その程度の時間自分の持ち場である仕事に神経を注げなくてどうする」(実際には仕込み、仕まいの仕事を入れると半日以上)途中で気を抜く時間を作ってしまうと、人間中々元に戻らず気が抜けた状態で午後の仕事に入るのはお客様にとって大変失礼な話だ。ともお聞きした記憶がある
又、こうも聞いた。「全てのお客さまが12〜1時に昼食を召し上がるわけではない、中には仕事が忙しく 2〜3時になってからいただくお客様も有るだろう。そんな時並木にいらして暖簾が出てなかったらどうする?たとえ一人のお客様でも失礼が有っては成らない」
これが並木藪流の持て成しで有ると私は教わった。

中休みを入れないという事は修行の身で有る私みたいな従業員にはとても辛い事だ。私が働いていたころは10分の昼食時間だけだった。お昼の忙しい時間が終わると上の立場に有る職人さんと交代になり釜前、天麩羅、中台、などの仕事を任せて貰える。仕事を覚える時間は一分でも余分にあればそれだけ自分の腕に跳ね返ってくる。そんな時にゆっくり飯など食ってる余裕など無い。ささっと飯(主に蕎麦だった)をかっ込みすすっとお茶で流し込みぷくっとタバコを吸い流し、釜前などに入る。
職人を目指す者にとっては自分の体が辛いとかは以ての外で、一日の中でどこまで重要である仕事に関わりそれを自分の中に如何に取り込めるかが最も大切な事であって武田鉄也の歌では無いが、「休みたい」とか「遊びたい」などとほざく者は腕が上がらずに中途半端な仕事しか身に付かず並木藪を去って行く事に成る。(2001.3.11)