Carlosの喰いしごき調査委員会
がまだせ島原編
第6話のオマケ「半島から半島へ」

1.対馬の六兵衛の原料「せん」
 第6話「六兵衛は嫌われ者か?救世主か?」の巻の「注1」で、島原半島だけでなく同じ長崎県の対馬にも六兵衛が存在することを書いた。同じ長崎県内とは言え、対馬は朝鮮半島を目前に日本海に浮かぶ島で島原半島とはかなりの距離がある。
 対馬の六兵衛は、切り干ししたサツマイモを粉にした物を原料とする島原半島の六兵衛と違い、「せん」と呼ばれるサツマイモを発酵させて作ったデンプンを使って作るそうである。ヤムイモやキャッサバは種・品種によっては、そのイモに青酸系の毒を持つため、その毒抜きを兼ねて発酵させてからデンプンを採る方法が熱帯アジア、アフリカで見られるが、サツマイモではあまり聞いたことがなかった。「せん」の製法について詳しく載っている対馬発のホームページ「黒瀬HomePage対馬」によると、中国江西省でも同じようにサツマイモを発酵させて利用する例が有るとのことで、他に例を見ないと言うわけでも無さそうだ。

2.押し出し法
 さて、島原半島だけでなく対馬に六兵衛が存在することで、注目したいのはその「押し出し製麺法」である。第6話にも書いたが、日本の伝統的麺料理は「切り麺(うどん・そば)」や「伸ばし麺(そうめん)」が主流で、押し出し製麺法はほとんど見られない。私の知る限りでは六兵衛以外では日本には押し出し麺は存在しない(もしあるなら、知っている方、ご一報を!)。これに対して対馬海峡を隔てた隣国である朝鮮半島では、押し出し製麺で作られる「冷麺」が代表的な麺料理となっている。
 製法だけで単純にこの二つの麺料理を関連付けて考えるのは、いささか強引ではあるが、日本では他に見られない押し出し製麺法が、押し出し製麺法のメッカとも言える朝鮮半島に近い対馬で「六兵衛」と言う形で見られることは、なかなか興味深い事実である。

3.チャップチェ
韓国のハルサメ、サツマイモデンプンを原料とした押し出し麺 そもそもイモを原料に使った麺はメジャーではない、いや、ほとんど見られないと思う。世界の麺料理の材料は小麦、米がその大半を占め、その他ではソバ、エンバク(中華人民今日も喰う編 第1話参照)などが見られる程度で、イモ類を材料に使うことはあまり聞かない。
 朝鮮半島の冷麺は(全てそうではないが)原料としてバレイショデンプンが使われることがあり、麺食文化的には珍しいイモ麺の一つとも言える。このことから、前述のように押し出し麺つながりということもあり、当初は六兵衛と冷麺の関係を疑っていたが、もっと六兵衛に近い麺が朝鮮半島にあったことを思い出した。「春雨」である。
 春雨も押し出し法で作られる麺である。中国の細い春雨は緑豆(リョクズ・リョクトウ)のデンプンで作られるが、朝鮮半島の春雨炒め「チャプッチェ」に使われる太めの春雨は、なんとサツマイモデンプンが原材料であるのだ。

4.半島から半島へ 
 島原半島の六兵衛と朝鮮半島の春雨が
@アジアの(ひいては世界の)麺食文化的に非常に珍しいサツマイモを原料とした麺であること、A日本では他にない押し出し製麺法による麺であること、
であるという2つの事実は偶然の一致だろうか。
 また、対馬の六兵衛が精製したサツマイモデンプンである「せん」を使っていることは、切り干し芋を製粉しただけの粉を原料とする島原半島の六兵衛よりも、幾分、朝鮮半島の春雨(精製サツマイモデンプン使用)に近くなっているように考えられ、三地点の地理的な距離関係と一致するとは考えられないだろうか?
 「この二つの麺料理に何らかの関係がある」というのは、あくまでも仮説にすぎないし、仮説と言うにはかなり強引かも知れない。たしかに、島原にはこれ以外に朝鮮半島との関係の痕跡を表す文化的要素が乏しいし、六兵衛は汁で、チャプチェは炒めて食するという点でも大きく異なっている。しかし、製法と原料についてみると、朝鮮半島の春雨と島原半島の六兵衛に、なにかつながりがあるように思える。半島から半島へ、目には見えない「赤い糸」ならぬ「赤い麺」がつながっているのではないだろうか?


※上記のリンク掲載について、御不備等ございましたらこちらまで御連絡よろしくお願い致します。速やかに対処致します。 saitamaya.net webmaster  Hiroyuki Arai