第7話 「旨い肉、臭い肉」
(写真にマウスを当てますと簡単な説明が出てきます。)

 ブルキナファソのとある村でお土産として頂いた鶏 我々調査団(注)はブルキナファソのレオ村まで出かけてきていた。笹川アフリカ協会が同村で実施している農業プログラム(SG−2000)について調査するためである。このプロジェクトでは農民に農業技術指導を行うと同時に、少額の貸付ができる農村銀行を設置しているそうだ。農民が肥料や種などを買うための少額のお金を貸し付けて、収穫後に返済してもらう小規模の金融機関である。この方式により現地では良い成果を収めているとのことであった。さて、この村でも我々一行は村を挙げての盛大な歓迎を受け、帰りには豪華なお土産まで頂いた。その豪華なお土産とは....生きた鶏が三羽。もちろん村にとっては貴重な鶏であるので、失礼にならないようにありがたく頂戴することになった。

生前のホロホロ鳥
その焦げ目に至るまで忘れがたい逸品。ホロホロ鳥のロースト
 実際に、西アフリカで食べた鶏肉料理はどれも美味しかった。しかし、さらに鶏肉より旨かったのがホロホロ鳥だ。同国首都ワガドウグのレストランで食べたホロホロ鳥のローストは、その味、その香り、その焦げ目に至るまで忘れがたい逸品であった。後日、別店で、再度ホロホロ鳥を注文しようということになったのだが、困ったことに誰もホロホロ鳥のフランス語名を知らなかった。一生懸命説明はしてみたが英語のわからない店員さんも首をかしげるばかりだった。その時、突然、同行記者氏が突然口をとがらせ「ホロホロ、ホロホロ」と言いながらパタパタと手を羽ばたかせ、ホロホロ鳥の形態模写を始めた。通じるわけ無いと冷ややかな目で見ていたのだが、意外にも店員さんの顔に笑顔が戻り、すぐに調理場に走っていった。数十分後、見事に我々はホロホロ鳥のローストにありつくことができたのである。あきらめずに何でもやってみるものだ。

 肉といえば、隣国コートジボアールのアビジャンで我々が宿泊したホテルにはビュッフェスタイルのレストランがあって、そこにはマトン・鶏・アンテロープ(レイヨウの類)の3種類の肉の煮込料理がそれぞれ並んでいた。これら煮込料理をご飯かアチャケ(第5話参照)などの上にカレーライスのようにかけて食べるのである。店員さんが一種類選べと言うので、私はすかさず、未知の味であり、いかにもアフリカっぽいアンテロープ肉の煮込みを選んだ。食の好奇心旺盛な私は未知の食べ物に出会って、かなり嬉しそうな顔をしていたようである。前出の同行記者氏はその時の私の顔をみて「松島がうれしそうな顔をしているぞ!きっとアンテロープは美味しい肉なのだろう。」と勘違いして、自分の皿にもアンテロープの煮込みを大盛りに盛ってしまっていた。テーブルについてこの未知の肉を食べてみたところ、これがかなり臭かった。ふと横を見ると、一口だけ口にした記者氏がスプーンを持ったまま固まっていた。「松島に騙された」彼は、大盛りのアンテロープ煮込みとその一言を残してテーブルを去ってしまった。後日、現地NGOの日本人職員の方に聞いたところ、実はアンテロープの肉は臭くはなく、とても美味しい肉とのことだった。このレストランでは肉の保存法か調理法が悪かったのだろうか?(ちなみに記者氏が残したアンテロープ煮込みは私が全て平らげたことを書き加えておく。)

大ネズミの煮込み料理 さて、話はブルキナファソに戻る。サバンナの中の道を車で走っていると、子供が猫ぐらいの動物の尻尾を持って、道行く車にグイッと見せつけている風景をよく見かけた。この動物は現地で「アグチ」と呼ばれる大ネズミであり、なんでも和名がアフリカオニネズミというのだそうだ。私が見た道端の子供はこの大ネズミを捕まえて、道行くドライバー相手に売っているのだそうだ。現地の人はこの肉が好きなので結構売れることから、子供達には良い収入源になるそうだ。後日、首都ワガドウグのレストランで、私たちもこの大ネズミを食べる機会にありつけた。木製のボウルに盛られた煮込料理はトマト味で、大ネズミの良いダシ(?)が出ているためか味が良く、ご飯にかけても美味しかった。肉の方は、よく煮込まれており、硬めのコンビーフのような歯触りだったが、アンテロープとは違った独特のにおいが少々気になった。その独特の臭いは言葉で表現するのが難しいが、同席した記者氏の言葉を借りると「獣臭いというより、なんだか薬臭い」といった感じになる。肉には5mm程度の厚さでネズミ色の皮がベローンとつながっており、ゴムのような弾力と、歯にネットリとまとわりつくような脂が何ともいえない歯触りを醸し出していた。とはいうものの、独特の臭いと皮を除けば結構食える味の肉かもしれない。

本文には書いていないですが、実は他の村でもお土産の鶏を数羽頂いていたのでした さて、前述のお土産鶏3羽は、結局、我々一行のドライバー氏、ガイド氏に譲ることになった。私的には、日本まで持ち帰り、成田空港の手荷物引渡所のベルトコンベアーに、この足を縛られた3羽の鶏をグルグル回してみたかったのだが....
注:途上国を対象とした実情調査(1998年、日本財団が組織・派遣)



 

食の科学
(2003年6月号)掲載分

 Carlosの喰いしごき調査委員会